東京小平市にある国立精神・神経医療研究センターで開催された「薬物関連問題ソーシャルワーク研修」に参加しました。
今回のテーマは「連携」
「薬物乱用・依存からの回復過程において、薬物関連問題にかかわる多様な機関・施設が、一定の共通認識のもとによりよい連携をはかるためのネットワークを構築する機会を提供すること」
司法機関、行政機関、民間回復支援施設、地域支援機関、医療機関、から約70名の参加がありました。
講師の方々は
・国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦先生
・NPO法人リカバリーの大嶋栄子先生
・高崎健康福祉大学の池田朋広先生
・法務省保護局の赤木寛隆先生
・国立精神・神経医療研究センターの若林朝子先生
・NPO法人八王子ダルクの加藤隆代表
・NPO栃木ダルクの栗坪千秋代表
と言う、そうそうたる方々で、どの内容もとても濃い物でした。
こんな立派な冊子が配られ、これを無料で受講できるなんて、素晴らしいと思いました!
どの方のお話もとても素晴らしかったのですが、私が一番印象に残ったお話は
法務省保護局の赤木寛隆先生の「薬物依存と更生保護」でしたので、その内容をシェアしたいと思います。
1 現状と課題
平成28年末時点で、覚せい剤関連で1万3000人以上の方が受刑中。3000人以上が保護観察中です。
ちなみに受刑中の主な罪名の1位は「窃盗」で2位が「覚せい剤取締法違反」ですがほぼ同数で、おそらく今年ぐらいには1位と2位が入れ替わるのでは無いかと予想される、ということでした。
覚せい剤の受刑や保護観察の予後については、
出所後、翌年末までに約2割、5年以内に約半数が再入所
保護観察付執行猶予中に
3割以上が執行猶予取り消し
となっています。
覚せい剤の使用による受刑を少なくするためにはどうしたらいいのか?ということが課題であるということでした。
2 更生保護とは
地域社会において、犯罪や非行からの立ち直りを支援し、再犯や再非行を防止する取り組みのことを更生保護と言います。ここでの目的は「監視」」や「取り締まり」では無い、ということがポイントです。
3 最近の動き
⑴ 刑の一部執行猶予制度
この制度の導入にあたり、更生保護法が一部改正されました。
・保護観察所の長が、薬物依存に関して、医療や専門的な援助を受けるよう指示することができるようになった。(保護観察を受けている人の意思に反しないことの確認、医療や専門的な援助を行う者との事前協議が必要)
・他所で受けている援助の内容に応じて、保護観察所のプログラムの一部を免除することができるようになった。
・医療機関などへの情報提供依頼などにより、心身の状況を保護観察所が的確に把握すること、とされた。
⑵ 再犯防止推進計画(一部抜粋)
・刑事司法関係機関における効果的な指導の実施
・治療、支援を提供する保健・医療機関の充実
・薬物依存症の治療、支援ができる人材の育成
4 私の感想
保護観察中に保健医療機関で治療・支援を受ける方は、たったの4.4%ということに衝撃を受けました。
グループワークでご一緒した、生活困窮者支援をされている方もおっしゃっていましたが
いきなり「薬物問題で困っています」という相談は皆無で、仕事のことや人間関係のことで相談をしていくうち「実は・・・」となるケースがほとんどだそうです。
依存症は否認の病とも言われていますが、
本人が否認するだけでなく社会全体も、依存症は病ではなく本人のモラルの問題である、という認識が今でも根強いです。
依存症で悩んでいるけれども
・相談できる場所がない(相談したいけど言い出せない)
・薬物のことを話したら警察に通報されるんじゃないか
こんな思いを抱いている患者様が現実にいるのに、医療機関に繋がらない。。。
これは患者様の問題ではなく、医療側の問題だと思います。
医療機関の人には、
「覚せい剤使用者がきたら、警察に通報しなくてないけない」
という間違った認識を持っている人もいます。(守秘義務が優先ですので通報しなくていいんです。)
依存症は病であるという認識が徐々にではあるけれど広まってきている中
鍼灸業界でも依存症という病へのアプローチは必須になると思います。
依存症関連の学会やシンポジウム・研修会に参加して、鍼灸師さんとご一緒することはほとんどありません、っていうかほぼゼロです。
まず、この無関心をなんとかしなくてはいけないな、と強く感じました。
また、今回の研修会のテーマである「連携」についてですが、
依存症患者さんがどこかの機関につながった「後」の連携では無く、つながる「前」の連携が必要なんじゃないかと感じました。
関係各所やマスメディアが連携して、つながるきっかけを作ること。
それは再使用の予防にもつながると思います。
理想論にならないよう、どんなアクションが必要か、私なりに考え、行動したいと思いました。